山へ
先日、何週間かぶりに山へ行って参りました。
豪快な入道雲が覆いかぶさっている山へと向かっている時から胸が躍り足を早めて登山口へ向かいます。
初秋の山では方々でツクツクボウシが賑やかに鳴いていました。
騒がしい山の音、自分の息遣い、土を踏む音を聞きながら歩く内にシャツや首にかけたタオルには汗が滲み、ちょっと休憩、と立ち止まって振り返ると遥か遠く海の上に大きな雲が広がって、まだ夏の景色。
山道をどんどん歩いてやがて山頂に着くと岩に腰掛け飴を食べて水を飲み、汗をぬぐって暫く休んだら、またリュックを背負いなおして、さて、とっとと下山です。
といいますのも私はお弁当を持って登るより空腹のまま下山し、麓でご馳走を食べるのが好きなので、山頂に到着すると休憩もほどほどに山を下るのです。メシ、メシ、メシと念仏のように唱えながら下る頭の中では、山の詩情は掻き消え食べることへの執念で一杯です。
登るときは一人、下山する時は食欲と二人連れです。
走って下山したいのを堪えて小股でゆっくりと歩くように努めて、やっと麓に辿り着いてご飯を頬張る時の喜びは何物にも代え難い素晴らしいものです。
お腹が一杯になって、食欲に騙されてちょっと食べ過ぎたと後悔しながら、満足、とお茶など啜っておりますと消えていた山の匂いや音や景色が鼻先に残る揚げ物の匂いの下から湧き水のようにゆっくり蘇ってきて、あぁまた山へ行きたい、となります。
そこに山があるから、というより麓に飯屋があるから登っているのですが、山歩きは止められません。
クリタケ