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マイスター大学堂社長の久利計一さんとのご縁は、もう20年近く前にさかのぼる。私が進行役をつとめていた美術番組で、画家鴨居玲を紹介することになり、それがきっかけで、生前の鴨居さんと親交の深かった計一さんにお目にかかった。その後も、仕事とは関係なくお宅にお邪魔して、数々の鴨居玲作品を見せていただくような、おつきあいとなった。
鴨居さんは、計一さんのご子息の将輝くんを、たいそうかわいがっていたようで、直筆の手紙を見せていただいて、その真摯な愛し方に胸を打たれたことがある。
「近頃ではめずらしく、しつけの良い子で、私は可愛くて仕方がありません。私がどうしても子供に甘いので、せっかくの貴方達のしつけが、乱れるのではないかと心配しております」というような一節もあった。これは長い目で子供を見守る人の発想だ。
私はその後、鴨居さんが住んでいたスペインの小さな村を訪ねてしまうほど、鴨居玲に夢中になった。エッセイもずっと愛読している。彼が人間を見つめるまなざしに惹かれるのだ。
計一さんと鴨居さんとのそもそもの出会い、というのも、私の好きな話の一つだ。たまたま眼鏡を買った店の青年が、とても感じが良かったことを嬉しく思い「大事なことだと思います」という手紙を、鴨居さんがしたためた。その青年が計一さんだった。
そんな出会いにはじまり、かわいがっていた将輝くんが健やかに成長し、ドイツでマイスターの資格を取得するまでになった。もし、鴨居さんが生きていたら、どれほど喜び祝福したことだろう。将輝くんも、鴨居さんに報告したかったことと思う。
今は鴨居さんの声を聞くことはできないが、あたたかく深く厳しい彼のまなざしを感じつつ、将輝くんはきっと、素晴らしいマイスターになれることだろう。
歌人 俵 万智 |
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